ギタリストがピックを投げる文化について考える

※お断り

本文は2019年11月30日の打首獄門同好会×氣志團の対バン直後に書かれたもので密密放題モッシュダイブ上等なライブハウスを前提に書かれています。

アップするまでにかなり時間が空いた事など含めて諸々ご了承ください。

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ギタリストがピックを投げる文化について最近少し考えている。

というのも先日打首×氣志團の対バンライブを観に行った折、氣志團のギター西園寺瞳さんが折に触れてカッコ良くピックを投げていらしたからだ。

背が高くて舞台映えする西園寺さんの指先から放たれるピック。

盛り上がるフロア。

アレはカッコいい。

カッコいい文化だ。

以前、筋肉少女帯のライブを観た時もギターの橘高さんと本城さんがピックを投げていらした。

特に橘高さんはピックを投げるというよりも花弁を散らすように盛大に撒いてらして、それもまたキャラクターと相まってカッコよかった。

対してピックを投げないギタリストもいる。

それはそれで一種のストイックさを感じて好ましくも思えるのだが、あちらの界隈は投げがちなのにあの界隈は投げないよなーなどとと思いを馳せている内にその違いが気になったのだ。

 

ところで「ピック」って何?という方にご説明申し上げると撥弦楽器を演奏する為の小型の道具を概ね「ピック」と呼びます。

本稿で言及するのは主にエレキギターエレキベースを弾くための三角形のおにぎりみたいな形をした薄い板状の「ギターピック」についてです。

 

さて、ピックを投げる界隈と投げない界隈、なんとなく頭の中に思い浮かべて思い至ったのがこちら。

「専業ギタリストは投げがちだけどギターボーカルの人はあまり好んで投げない説」

そもそもギターソロ終わりとかボーカルの見せ場などギターが若干手隙の時にギタリストはピックを投げる訳ですが、歌を歌いつつギターを弾きつつ次の展開を考えつつMCまでこなす…となるとピック投げてカッコつけてる場合じゃ無いのかもしれません。

とはいえ、ライブ中に投げないんならライブ終わりに投げてもいいんじゃない?と思わないでもない。

実際投げる人もあろう。

 

という訳で次に思い付いたのはこちら。

「フロアが激しくわちゃくちゃになるタイプのバンドは投げない説」

つまり、モッシュダイブ上等なフロアにピック投入したらピラニアの群れに生肉投げるようなものでえらい事になりそうだから投げられない、というパターン。

これはまあありそう。

かの有名な日本武道館は混乱を防ぐためステージから物の投げ込み禁止らしいですからね。

暴れん坊が多いフロアであってもまずは安全第一。

いくらフロアを沸かせたいといっても怪我人騒ぎで沸くのは本末転倒。

下手すりゃバンドが出禁になっちゃいますもの。

そういうの大事。

万事ご安全に。

 

さて、ピック投げを行うギタリストが所属するバンドをツラツラ頭の中で並べてみるとなんとなく興味深い共通項が浮かんできた。

若い内に売れているのだ。

という訳で思い浮かんだのがこちら。

「経済的理由説」

身も蓋もない。

世知辛い。

いやでも「ギターピック」でググって頂くと分かるんですけど、底値が大体一枚20円ぐらいなんですよ。

一枚20円って安いように思えるけどうまい棒2本分ですからね。

それに人前で演奏するような人のピックは一枚70〜150円辺りが相場だと思われるんですけど、それをライブで毎回何枚か投げるって地味〜に負担になりそうな予感がするんですよ。

若い内に売れてワンステージ1000円も掛からない物に目くじら立てるような事はしない人ならばナンボでも投げると思うんですけど、小劇場芸人・小劇団俳優・地下室バンドマンというのは貧乏の代名詞みたいなもんじゃないですか。

食費光熱費交通費など諸々支払いに窮する事もありつつたった15〜20分のステージに上がるために頑張って働いてノルマを支払って(駆け出しのバンドマンは箱に出演料を支払うんです。貰うんじゃなくて支払う。詳しくは「チケットノルマ」で検索。)そんなバンドマンが大事な商売道具=必要経費を投げる…そんな勿体ない事するかい!…という精神がそこそこ売れても残ってる人はいそうだしそういう人は投げないだろうな、と。

逆に強い憧れがある人は反動でめちゃくちゃ投げるようになるのかもしれませんけどもその辺りは私のような素人が窺い知る事もできない所です。

 

あとアレですね。

「客入りの良くない地下室での下積みが長すぎたらもう投げないというか投げられないよ説」

考えてみて下さいよ。

客入りもあまり多くないライブのフロア。

友人知人対バンがお義理の最前列で盛り上がってくれる。

そんな客席に向かってカッコつけてピックを投げても投げたピックは奪い合われる事もなく床に落ち、関係者が気を遣ってそっと拾い上げられる。

場合によっては気を遣う関係者すらおらず床に落ちたピックはそのままに次のバンドの出番になり忘れ去られ、閉演後ゴミとして廃棄の憂き目に………ツラい。

想像するだけでかなりツラい。

繊細なバンドマンだったらこんな状況耐えられないんじゃないか…。

心折れてもうピックは投げないと誓う…そんな人もいるのではないか。

対して若い内に人気がガンと出て小箱ながらもそこそこの動員数を稼げてキャーキャー言ってくれる固定ファンも付いていた、という界隈はお金の掛からないファンサービスの一環として積極的にピック投げするのではないかと思うんですよ。

逆にお客さんとの距離がガッと離れてしまうような超大箱(例えば武道館とかドームとか)に一足飛びに行っちゃった人は投げ辛い気がしますよね。

物理的に。

お客さんまで届かない…みたいな悲しい事態になったらお互い不幸だし。

客に届く勢いで投げて目に当たったのなんのと事故になるのもまた困るし。

その規模になると別の方法で物を降らすとか発射するとかもできるし。

 

あとはもう考え方の違いですよね。

ミュージシャンがピックを投げて喜ぶのは運の良い極々一部の人間な訳で、フロア全体がそれを良しとするか?という根本的な問いに対する考え方の違い。

自分の大事な道具を投げるという行為に対する考え方の違い。

そして費用対効果をどう見るか。

 

ところでピックって投げてどれぐらい飛ぶもんなんでしょうね?

平たくてある程度の硬さのある物体はそこそこ飛ぶっていうのはトランプ投げを練習した事があるので分かるんですけど、アレ飛ばすのに結構鍛錬が必要な気がするんですよね。

舞台の上から万来のオーディエンスへ向けてカッコよくピックを投げる為に自宅やスタジオで地道に練習している姿を想像すると…ほのぼのとした可笑し味としみじみとしたエモさがありますね。

知らんけど。

 

何はともあれピックを投げるも個性、投げないも個性。

板の上に立つ人は等しく舞台の上が一番輝いている。

という雑な結論を投げて本稿の〆とさせて頂きます。

ありがとうございました。